「今年もニューヨークでは大雪が…」とテレビのニュースで流れたその景色は、私にとって馴染み深いものだった。とてつもなく寒いと分かっているのに、ニューヨークを訪れる時はなぜか冬が多いからだ。
好きだと思う国は今でこそたくさんあるが、旅に多く出始める前はアメリカは憧れの地だった。いや、今でもずっと、憧れだ。何度訪れてもちょっぴり緊張するし(トランプ政権だった頃の入国は特に)、わくわくするし、アメリカらしいものには一段と心が躍る。
アメリカらしい、と思うもののひとつは、私にとってはアメリカンダイナーで、そこで飲む、無限におかわりを注がれるうすいアメリカンコーヒーもそれだ。
アメリカ人はもともと浅い焙煎のコーヒーを好んで飲んでいた、というのがアメリカンコーヒーと呼ばれる所以だそう。なんとなく、現在のアメリカンコーヒーは、お湯を多めにして抽出された、薄い味の、原価を抑えたコーヒーを指しているような気もするが…(ちなみにアメリカーノはエスプレッソをお湯や水で割った、アメリカンとは別の飲み物を指す。)
美味しいコーヒーを求めて旅をしているというのに、アメリカ滞在中は、ダイナーやベンダーで飲む特に美味しくもないコーヒーが恋しくてたまらなくなる。スペシャリティコーヒーに中指を立て、食べきれないと分かっているけれど大きなパンケーキと、コーヒーをいそいそと注文する。
味の薄い、でも苦味だけはしっかりとあり、少し甘みを感じる香りを放つコーヒーを、分厚いマグでがぶがぶと飲みたい。
きんと冷えた冬の朝、セントラルパークを散歩して、ダイナーへ駆け込む。ニューヨーカーを気取る、そんな旅ができる冬をまた迎えるために、もうそこまでやってきている春を受け入れようと思う。