あますことなく、どうにか残しておきたい。写真でも文章でもいいから、新しく始まった、この私の暮らしを。何個も何個もあるハードルにつまづきそうになりながらも、なんとか乗り越えた頃にはくたくたになってベッドに沈み込んで一日を終えてしまう。こうやって筆を取れたのは日曜日だからだ。待ちに待った週末。
カナダにいた頃の日常の何でもないことをもっと書いておけばよかったと後悔したので、つたない文章でも、日々のかけらでも残しておこうと思う。
マレーシアに来てから半月ほど過ぎた。仕事が始まって一週間。いわゆる「オフィス」というものに今まで一度も勤めたことのない私は、たくさんの企業が入る大きなビルにセキュリティカードをかざして入るだけでも、大人になった気分だ。十分すぎるほどもう大人なのだけれど、未経験のことがまだまだたくさんあるだなんて、人生は楽しいものだ。
思い返してみると、この2、3週間でたくさんのことが過ぎていったように思う。
ほぼ2週間ホテル住まいをしながら内見をして、家を決めた。入居。
カナダでは家の一部屋を借りるだけだったのでほぼ口約束のような形で契約が済んだのだが、英語での契約書は初めてだったので、翻訳機にかけながら念入りにチェックした。
こちらの電話番号も無事に開通したし、税務署に行ってtax numberを取得したり、現地の銀行口座を新たに開いたりした。
家のWi-Fiは備え付けではないので、契約をし、ルーターの設置の申請をしたところ。(というわけでまだ家にはWi-Fiがない…)
週末の休みの度に、少しずつ生活に必要なものを買いに出かけ、暮らしが形になってきた。
こうやって羅列した、いわゆる「海外に移住したらやることリスト」を一つずつこなしていくのも大事だけれど、例えば。
ランチタイムに出かける会社のビルの地下の、マレー系のごはんやさんか、インド系のカレーやさんか、どちらが自分の舌に合うかももう知っているし、ちょうど帰る時間にスコールに遭うので、毎日リュックに傘を忍ばせることも忘れない。
信号がない横断歩道だってバイクと車の隙間をすり抜けながら渡ることが出来るようになったし、ラマダン明けの花火の音を聴きながら日々眠りにつく。
To doリストには載らないけれど、その国をつくる大事な成分のようなもの。それらが私の中に溶け込み、少しづつなじんでいく過程はなんて好ましいのだろう。新しい土地に住むことの醍醐味だと思う。充分に噛み締めれば、ここでの私を形作るものになるだろう。